チームワーク促進の最新研究事例

対象シーン

    参加者のワークへの取り組み方に変化を起こしたいとき

対象年齢

    全年齢

実施費用

    0円(場合によっては読むのに費用がかかる論文もあり)

 

皆さんはワークショップをファシリテーションする際に、参加者のどのような態度に注目していますか?

楽しんでいるか、目標を理解しているか、無事何かしらの結論へ着地することができたか等など、あらゆる注目ポイントがあるとは思います。

中でも今回特に取り上げたいのは、参加者全員が「ディスカッションに参加しているか」という点です。

 

チームワークにおいて、参加者全員が等しく貢献していることのメリットについての研究は、長年なされてきています。

逆に言えば、参加率が等しくないグループは、等しいグループに比べて、チームワークがうまくいかない、ということがわかっています。

Salomon (1989)の研究では、ある参加者が他の参加者に作業を全て任せることによって生まれるグループ全体の負の効果を”Free Rider Effect”として紹介しています。学びという観点だけに限って言えば、Cohen(1994)の研究によって、グループワークに参加しない学生は学びの質が落ちる、ということも分かっています。Rogatら(2011)の研究では、チームワークにおいて全員がタスクに取り組んでいることを支え合うことによって、Socially Shared Regulationが生まれ、より上手くチームをコントロールすることができると説明しています。Vauras(2003)は、参加者全員が自分の考えを「オープンに言い合える」ことで、またこのSocially Shared Regulationが上がると説明しています。この「オープンに言い合える」ことについては、GoogleのAristotleプロジェクトも重要さを訴えていて、Googleらしく優秀なグループのあらゆるデータを分析した結果、成功するチームに共通していたのが「心理的安全性」だったそうです。更に、Woolleyら(2010)の研究によって、グループ版のIQ値とも呼ばれるCollective Intelligence(集団的知性)も、グループ全員の等しい発現率によって上がるということも分かっています。

つまり、あらゆる時代を越えてチームワークというものが研究されてきた結果、チームメンバーの全員が等しくディスカッションに参加している状態がベストである、ということが分かっています。

 

では、改めてみなさんがファシリテーションを行っているワークショップを見返してみるとどうでしょう?

ワークショップ内の各グループで全ての人が等しく参加している状態というのはなかなか見受けられない、というのが現状ではないでしょうか?

やはり人間である以上、肩書や年齢、更にはそのときのテンション等、あらゆる要因によって、特に話す人がいれば、同時にあまり話さない人もいる、という状況が多いように感じます。

 

そこで、こうした状況を打破するために研究されているのが、「Group Mirror」という研究領域なのです。

Jermannら(2001)の研究によれば、コラボレーションを促進するような研究はおおまかに二つに分けることができ、一つは現状のチームワークの状況をありのままにビジュアライズするようなシステム、そしてもう一つは現状を踏まえた上で理想的なチームワークの状態へ導こうとするようなシステムだとのことです。そして、この二つのうちの前者が、Group Mirrorと呼ばれます。

これまでにGroup Mirrorの主な研究事例では、グループワークを行っている参加者の発話率をリアルタイムにビジュアライズすることによって、等しい参加率になるように参加者自身が全員で自己調整を効かせる、というものが多いです。

 

例えば、Kimら(2008)の研究では、参加者らの発話率を以下のような球が引っ張り合うようなグラフィックで表現し、それを携帯電話の画面にリアルタイムに表示しています。

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またDiMiccoら(2006)の研究では、同じく発話率や会話の遷移回数などを以下のようなグラフ形式で表現し、それを壁にプロジェクションしています。

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Bachourら(2010)の研究では、以下のようなグラフィックで、発話の多さを机に埋め込まれたディスプレイで直接表示しています。

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こうした、スタンダードな「グラフ形式」のビジュアライゼーション方法に対して、Strengら(2009)は「メタファーを使った」ビジュアライゼーションの方が人気なだけでなく、効果的である、と説明しています。

メタファーを使ったビジュアライゼーションとは、例えば同Strengらの研究の天気の良し悪しを使った表現であったり、

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Tauschら(2014)の花の開花を使ったような表現であったり、

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更に同じくTauschら(2016)による風船の膨らみを使ったような表現があります。

またこの研究でTauschらは、こうしたビジュアライゼーションで競争を促すよりも、グループ全体としての発話回数等もビジュアライゼーションし協力を育む方が、よりグループの制御に効果がある、としています。

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こうした研究は、主にCHI(Computer Human Interaction)やCSCW(Computer Supported Cooperative-Work)という世界トップレベルの学会で毎年発表されています。

今回はGroup Mirrorという研究領域について紹介しましたが、このジャンル以外にもShiら(2017)によるブレインストーミング中に発せられたキーワードを自動で抽出しそれに関連する画像をディスプレイに表示していくシステムや、はたまた参加者やファシリテーターの生体反応(心拍、瞳孔の大きさ、発汗等)をもとにその人の状態や理解度を分析する研究など、ありとあらゆる方法で質の高いチームワークに向けた取り組みがあります。

 

ファシリテーターの皆さんも、こうした研究は他人事だと思わずに、是非目を通すようにしましょう。

他にも面白い研究があれば、是非教えて下さい!